なくてはならない場所になりました。

東日本大震災 |
2017年 2月 14日




ボランティアストーリー031-01
黒田さんは長町駅の目の前にある八百物屋まるしんを経営する傍ら、NPO法人アートワークショップ すんぷちょ(以下、すんぷちょ)で活動しています。
すんぷちょは、「すべての人にアートを」をスローガンに、年齢や障害の有無問わず、多様な人が芸術に触れ、交流することを目的にワークショップや舞台公演を行っている団体です。
黒田さんにお話を伺う中で「最初の頃、活動にのめりこんで家族や周りの人たちを置いてけぼりにしてしまった」という言葉が印象的でした。
家庭と仕事とすんぷちょの活動は別。ということではなく、大切な3つと一緒に生きていくことが、黒田さんらしさを惹き出しているんだなと感じました。
東日本大震災を経験してどのような気持ちの変化があったのか、そして活動してきたのかお話を伺ってきました。

Q.すんぷちょに出会ったきっかけを教えてください

私は、もともとアート展に行くことが好きで、2012年に仙台市内で行われた障がい者の作品を飾っているまちあるきイベントに行ったんです。
そこでたまたま、すんぷちょのパフォーマンスを見たのがきっかけでした。
パフォーマンスを見ていると自然と体が動いて楽しいなと思い、とても魅かれました。
もっとすんぷちょのことを知りたいと思っていたときに、ちょうどNPO法人化の設立記念パーティーがあることを知って行ってみました。
知り合いは一人もいなかったのに、あったかい雰囲気で自然とその場に溶け込むことができて、一気にすんぷちょのことが好きになりました。

ボランティアストーリー031-03
設立記念パーティーの様子

Q.すんぷちょではどんな活動をしていますか?

最初は舞台公演に出てみたり、イベントのお手伝いをしていました。
活動をしているうちに、会計を担当する人がいなくて困っているということを知って、今は団体の会計処理をボランティアでやっています。
具体的には、参加費の集金、各所への支払い、毎日のキャッシュフローを付けて団体の資金管理を行っています。

Q.会計というとハードルが高い印象もありますが、どのくらいのペースで活動をしていますか?

私は自営業なので会計処理は自分の仕事でも担当しているし、すんぷちょに行くのは月に3回程度なのでそこまで負担ではありません。
ただ、すんぷちょと出会うまでは、NPOについての知識がほぼなかったんです。
以前は、NPOって会社を経営するよりも利益をあげなくてもいいし、払う税金も少なくて潤っている団体といったゆるくて楽なイメージを持っていました。
だけど実際に関わってみると、大変なことが多くて…。
大変な中でも、みんな楽しそうに活動をしていて、どんなことを心に持ってやっているんだろう。とNPOの活動にも興味を持つようになりました。

Q.すんぷちょの活動に関わるまではボランティアをしたことありましたか?

やったことなかったです。
どういうものなんだろう?と少し興味があったんですけど、ボランティアをしたことのある人が身近にいなかったし、「何か特別なものがないとできない。私なんかが何ができるんだろう」と思っていました。

Q.やってみようと思ったきっかけは何かありましたか?

気持ちが変化したのは、震災がきっかけなのかなと思います。
東日本大震災が起きて、ボランティアが取り上げられることが多くなって、ボランティアについて少し知るようになりました。
3連休でがれき撤去のお手伝いをしている人がいたりと、家庭や仕事や学校がある「普通」の人たちが自分たちにできることをそれぞれやっているということがわかって、こんな感じなら私にもできるかもしれないと思うようになりました。

Q.東日本大震災当時はどう過ごしていましたか?

お店は大きな被害がなかったので、営業していました。
震災直後は大きなお店は閉まっているところが多くて、食べ物が欲しいお客さんはうちの店に来てくれて、忙しかったです。
石巻の市場の人と連絡を取っていると、山の方の作物はどんどん採れている。食べてもらいたいし、売るものはあるけれど売り先がなくて市場に野菜や果物が余ってしまっているという話を聞きました。
また、沿岸部では震災から1,2か月経っても避難所で偏ったものしか食べれていないことを知ったので「フレッシュなものを食べたいだろうな」と思って、石巻や女川や南三陸の避難所に自分で連絡を取って、5か所くらいの避難所に野菜や果物を届けに行きました。

ボランティアストーリー031-04

Q.行動に移すことに抵抗などはなかったですか?

「避難所に行きたいんですけど」って電話するときは、本当に緊張しました!
人生で初めての勇気を出した行動だったと思います…。
震災を経験して、大切な人を亡くした人の話をたくさん聞いて、「生きていてほしい人たちが亡くなってしまって私は生き残っている。せっかく何かの運命で生き残っているのだから何かしたい」と漠然と思っていたんです。
緊張はしたけれど、行動に移してみたら受けれてくれるところもあったし、市場の人たちもたくさん協力してくれて。
まだガソリンもない中、自分の貯金を切り崩して避難所を回ったので継続的にとはいきませんでしたが、勇気を出したことで自信がつきました。
震災当時は、まだ電気もなくて、窓からの光を頼りに電卓をたたいたのを覚えています。
できることがあった、八百屋でよかったと思いました。

Q.すんぷちょの活動に参加するようになってご家族や周りの反応はどうでしたか?

最初は周りも「なんか面白そうなこと始めたんだな」という感じだったと思うんですけど、活動が楽しくて、だんだんとすんぷちょにかける時間の方が大きくなってしまって「一体何にのめりこんじゃったんだろう」って心配されたときもありました。
その時は自分にもできることがあるということが嬉しくて、自分がのめりこんでるという自覚はありませんでした。
ある日、旦那に「家族が悲しい顔しているのわからないで、他の誰か助けることできるの?」と言われてハッとなり、旦那や周りの人を置いてけぼりにしてしまっていたことに気づきました。
そのあとは、活動を少しセーブして、今は、仕事と家庭とすんぷちょの3つの活動を生活の中でバランスよく進めていきたいなと思って活動を続けています。

Q.実際にNPO(すんぷちょ)で活動したりやボランティアをするようになって気持ちの変化はありましたか?

NPOで活動するとか、ボランティアするとかって特別なことじゃないんだなと思いました。NPOの手伝いしているというと訝しがられたり、人と違ういいことをしているというアピールをしているよう受け取られてしまうときがあって、寂しいなと思います。
すごいと言われたくてやっているわけじゃなく、昔で言う町内会で餅つきを企画してやっているみたいな感じだと思うんです。
特別なことをやっているわけではないので、もっとみんなに知ってもらいたいし、もっと身近にボランティアに関わってもらいたいなと思います。

ボランティアストーリー031-05

私は、小学校5年生まで盛岡の団地で育ったんですけど、そこで人との距離感の取り方を学んだ気がします。
団地のコミュニティって、協力するときはするし挨拶もする。だけど個々に生活があるんですよね。
普通に都会で一軒家やマンションに住んでいると、隣の人と挨拶することって珍しいんだなと仙台に来て知りました。そういう中で生活していると、人との距離の取り方をわからない人って多いのかなって思います。
知り合いにも「どうしていいかわからないから挨拶しない」っていう人がいますし。
だけど、知らない人と話したり、関わることって不安だったりするけれど、不安以上の感謝をされるときもあるし、想像できない面白さがその不安の先にあるなって思います。
踏み込んでみるからこそ起こる、面白い化学反応があります。
団地にいたときの生活を思い出すと、知らない人や知らないことに関わることが無理なくできる感じが、すんぷちょで活動することに似ているなって思うんです。

ボランティアストーリー031-06

21歳の時に結婚して、八百屋で働いていますが、同い年くらいの女性や友人は結婚してそのまま家庭に入る人も多くて。普通の女性とは少し違うかもしれないけど、私は子どももいないし、社会にずっと出ていて、仕事を頑張るんだ、仕事で生きていくんだってずっと思っていたんです。
だけど、すんぷちょのメンバーに出会って、色んなことじゃんじゃんやりながら動いている人が多くて。
1つずつしかやれないと思っていたけれど、全部が完璧じゃなくていい。全部合わせて100点ならいいじゃんていう感じで楽しくやっている思うことができました。
会社もやりながら子育てもできるのかなって考えるようなりました。
すんぷちょに関わって、自分の人生こうじゃなきゃいけないとか、気持ちがパーッと晴れてやるべきことが見つかった感じがしました。
ボランティアをやっていなければ気づかなかったことだったと思います。
実はいま妊娠しているんです!
色んなことを知って、気持ちが変わったから授かることができたのかなって思うところもあって、すんぷちょにはすごく感謝しています。
今度は、お母さんという立場で関わることが楽しみです。

Q.すんぷちょの魅力を教えてください

一番の魅力は、自分が自分らしくみたいな、許される場所というところです。
社会的な立場も関係ないですしね。
私にとってなくてはならない場所になりました。

Q.最後に、これを読んでいる人へメッセージをお願いします

世の中にできることってたくさんあると思います。
私が活動について発信すると反応してくれる人がいるけれど、実際に行動の1歩を踏み出せない人って多いなと感じます。自然なきっかけで一歩を踏み出す人が増えてほしいです。
興味があるならどんどん色んな所に行ってみたらいいのになと思います。
行動に移すことで、知らないことを知ることができますし、意外に自分の生活と両立できます。
考え込まないでその場に行ってみる。私みたいな人が増えたら嬉しいです。

取材:田屋 由佳利
プロフィール

ボランティアストーリー031-07 黒田 美由紀(36歳)
職業:自営業(八百物屋まるしん
住まい:宮城県仙台市
出身:岩手県盛岡市



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